池上 思い切ったら早いんだけど、そこまでが大変。次は数年前、娘が結婚した時。大学を卒業して、これからあちこち一緒に旅行に行けるなあとワクワクしていたら、「私、結婚するから」と、ポンと家を出ていっちゃった。もう何をする気力も出てこなくて、「空の巣症候群」に。まさか自分がなるなんて、と愕然とした。
東 どうやって立ち直ったの?
池上 ひとり暮らしには広すぎる家だったの。精神状態を変えるなら、まず住む場所から、と思って、湾岸の高層マンションに引っ越して。毎日海を眺めているうちに、心がすっと落ち着いた。
東 キミちゃんは引っ越し魔だものね、気分転換になったんだ。
池上 引っ越しの趣味に助けられた(笑)。せっかくだから聞きたいんだけど、ちぃちゃんは、どうしていつも前向きでいられるのかな。
十二指腸潰瘍になって病院に行ったら
東 私も最初からこんなふうじゃなかったの。若い頃は「お嫁さんにしたい」「元気で明るい」というパブリックイメージを裏切っちゃいけないという強迫観念があって、いつも苦しかった。
そんなだから人に悩みを相談できないし、落ち込んだ時は、とことん悩みに向き合って、自己分析をしていたの。それは解決できるものなのか、諦めたほうがいいのか。問題の根本に何があるのか、と論理的に考えるうちに、立ち向かう気持ちが湧いてくる。
池上 とっても合理的。その解決方法は、いつ見つけたの?
東 まだ会社員だった20代の頃、十二指腸潰瘍になって病院に行ったら、お医者様から「仕事を辞めれば、きっと治りますよ」と言われたの。でも、「そんなの絶対無理!」と思って。
池上 どうやって生活するんだ、という話だよね。
東 そう。そこでじっくり考えてみた。「なぜ仕事がストレスなのか」を分析して、どうしてもストレスの元を取り除けないとわかったから、辞める決断をした。結果的に悩みも乗り越えて、芸能界に入る道も開けたのは、あの時、とことん自問自答したからだと思う。