「譲る」つもりでも、相手にとって「押しつけ」になっては

そんな私が80代半ばになって引っ越しをすることになり、同居する娘に「荷物を半分にするように」と宣告されました。

『91歳、ヨタヘロ怪走中!』(著:樋口恵子/婦人之友社)

娘から見たら雑物ばかりかもしれませんが、私にとっては一つひとつに思い出もある。それに、人間関係というものは、モノを媒介にして成り立っている場合が結構あります。古いモノをバッサリ捨てるということは、人とのつながりまで捨ててしまうことになる気がして、相当抵抗がありました。

とはいえ、収納スペースには限りがあります。渋々ながらも荷物を減らすことになりました。

片づけるとき、多くの人は洋服の処分に悩むそうですが、私の場合、洋服についてはもともとうまく手放せていたほうだと思います。

70代まではテレビに出ることも多かったので、洋服はとにかく数が必要でした。同じ服を何度も着られないので、当時から親戚や助手、お世話になっている方たちの「譲渡ネットワーク」をつくり、みなさんにお譲りしていたのです。

自分では「譲る」つもりでも、相手にとって「押しつけ」になっては困ります。「よろこんで引き取ります」と言ってくれる人に譲渡会を開き、そのたびに食事会もしながら部活動のように楽しんできました。引っ越しのときにも、このネットワークに助けられました。