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1989年に漫画家デビュー、その後、膠原病と闘いながら、作家・歌手・画家としても活動しているさかもと未明さんは、子どもの頃から大の映画好き。古今東西のさまざまな作品について、愛をこめて語りつくします!(写真・イラスト◎筆者)

観客に一瞬の気の緩みも許さない

「プロメテウスは人間に火を与えた。その罰として永劫の苦しみを与えられた」

ギリシア神話の引用から始まるこの一文と、オッペンハイマーの人生解釈を凝縮し、IMAX社の最新フィルムで撮影された激しい炎の映像のオープニングは、たちまち私たちを映画の中に没入させてしまう。

瞬間、ヴィスコンティの『地獄に堕ちた勇者ども』、のオープニングを連想した。不朽の名作だが、立体感や迫力で言えばすでに「古典」なのだと思い知る。『オッペンハイマー』で、映画界は確かに新しい一歩を踏み出した!

原爆の父である科学者「オッペンハイマー」をプロメテウスに例えたこの作品は、実に見事なシナリオと構成、俳優、そして技術で成り立ち、観客に一瞬の気の緩みも許さない。

一時期のハリウッドは技術競争に溺れ、内容を失った。故に私はハリウッド映画を敬遠してきたが、最近のハリウッド、いいじゃないか!! 本作の技術は、見事な人間描写を掘り下げるために正しく活かされている。