遠い国の誰かが身近になる
フランスの映画監督、脚本家、女優でもある著者が2017年に刊行した小説デビュー作。インド、イタリア、カナダで暮らす3人のヒロインのそれぞれ異なる苦難と希望を、リアルに、そして詩情豊かに描いたフェミニズム小説だ。
インドで不可触民(ダリット)として宿命づけられた最底辺の生活を受け入れて暮らすスミタは、それでも娘を学校に通わせたいと願い、そのためなら何でもする覚悟だ。イタリアのジュリアは、伝統的な価値観の強いシチリアでシク教徒の移民青年に惹かれ心を通わせ始めたとき父が事故にあい、財政の逼迫した家族経営の会社を背負う。カナダのシングルマザーで弁護士のサラは、分刻みのスケジュールをこなしてキャリアを積み重ねていたが、乳がんに罹患する。
遠く隔てられた3人は境遇がまったく違うし、読者の私たちからも遠い部分はある。なのに、思わず共感する場面がたくさん。たいしたことじゃないから言われたとおりにすればいい、と押さえ込まれるやりきれなさ。うまくいくはずない、とやりたいことを否定されるもどかしさ。がんばって、と言われながら切り捨てられてしまう恐ろしさ。これは弱い立場に置かれて生きるすべての人のための物語だ。フランス本国で100万部を超すベストセラーになり、32言語に翻訳。世界中に広がるなか日本でも今年4月に出版された。作家、批評家らに高い評価を得て、発行部数は現在6刷1万3500部を超えている。本書は、内容はもちろんその広がり方も、私たち誰もが「そんな遠い国の知らない誰かのこと、自分には関係ない」とは言えない世界に生きていると実感させてくれる。
『三つ編み』
著◎レティシア・コロンバニ
訳◎齋藤可津子
早川書房 1600円
著◎レティシア・コロンバニ
訳◎齋藤可津子
早川書房 1600円