さまざまな理由で不仲になったり、距離ができてしまったりした親の介護や経済面の援助が、いざ目の前に迫ってきたら……。「親の面倒などみるつもりはなかった」という3人のホンネから浮かび上がる、親と子それぞれの事情とは――ミサキさん(仮名)は、夫の突然の宣言で、姑の介護に関わることになった(取材・文=武香織)
長男夫婦を実家から追い出して
嫁姑トラブルや介護などの家族のしがらみに縛られたくないという理由から、「長男とは絶対に結婚しない」と決めていたミサキさん(54歳・専業主婦)。30年前、その思惑通りに次男である男性(現在53歳)と結婚した。
家業の工場を継いで両親と同居している長男夫婦を尻目に、自由気ままな生活を送っていたという。ところが昨年、義父が突然亡くなり、ほどなくして義母(当時76歳)が認知症を発症すると、状況が一変した。
「義母を施設に入れるという長男夫婦に対して、夫が『施設なんてかわいそうだ。俺が看る』と言い出したんです。しかも私になんの相談もなく、工場の経営は任せたまま、長男夫婦を実家から追い出し、義母との同居を決断してしまって……。まさに、青天の霹靂でした」
それからというもの、ミサキさんの地獄の日々が始まった。「俺が看る」という言葉はどこへやら、仕事の忙しさを言い訳に、夫は義母の介護をミサキさん一人に背負わせる。
認知症ではあるものの、身体的には健康だった義母の徘徊にはかなり悩まされた。迷子になり、警察のお世話になることもたびたび。おむつをつけても、脱ぎ廊下で粗相をしてしまうことも。
「義母は病前、優しくて頼もしい人でした。思春期を迎え、喫煙・無断外泊・不登校とグレてしまった私たちの息子を、『私に任せて!』と預かってくれたときは、本当にうれしかった。だから、お世話をしてあげたい気持ちはあったんです。でも、認知症になった義母のあまりの変わりように困り果ててしまって……」