しばらくして、デイサービスで利用していた小規模多機能型施設が経営するグループホームに空きが出て、入所を決めた。そこでようやく人心地がついたという。

しかし毎月の出費には苦労している。退職金は出たものの、税金や自身の年金保険料、母親の施設利用料などですでに半分に目減りした。

幸い、少し前に母親の貯金400万円が見つかり、使えるようになった。今の施設費用が月額およそ20万円。母親の年金15万円で足りない5万円をそこから支払っている。

「築43年の自宅はローンを完済しており、自分は今収入がなくても貯蓄を崩しながらなんとか暮らしています。しかし、あと何年もつか」

自身の年金受給前倒しも考えたが、もらえるのは月に8万円程度。生活していくのはかなり厳しい。

「今はまず休養し、少し落ち着いたら再び働くしかないと思っています。介護費用にあてている母の貯蓄が底をついたら、兄も負担してくれると言っていますが、どうなることか」

毎月の負担は、年金額が少なくなっていく世代にとって深刻だ。

 

次姉が使い込み、消えてしまった入院費

精神的にも金銭的にも苦しい介護は、眠っていた家族の過去の関係をあぶり出す。都内の金融会社に勤める水口陽子さん(54歳)もその一人で、「家族の心の中にはドロドロした気持ちが渦巻いています」と話す。

遠距離介護が始まったのは、一昨年末。九州に住む父親(88歳)が骨髄の病気にかかり、要支援1になった。入院することはなかったが、治療のため陽子さんと、東京在住の長姉(59歳)が交代で月に1度の通院に付き添うことに。それが1年ほど続いた頃、今度は母親(85歳)が転倒し、大腿骨骨折で入院してしまう。

「父を家に一人にしておくわけにもいかず、沖縄に住む独身の次姉が当分の間、一緒に生活することになったのです。父は自身の年金23万円から生活費を渡し、毎月9万円の母の年金を貯めていた口座から、当座の入院費を支払うように次姉に促したのですが、彼女はそれを使い込んでしまいました」

次姉には定収入がなく借金もあるようで、それまでにも親に金の無心をしていたらしい。この一件がきっかけで、父と次姉の間にも、三姉妹の間にも、わだかまりが生まれた。

母親の入院費13万円は、収入がある陽子さんが立て替えるしかなかった。その後、長姉と一緒に家の財産を洗い出してみると、1000万円近くあると思っていた貯蓄は、半分に減っていた。母親が着物の悪徳商法に引っかかっていたことや、これまでにもかなりの額を次姉に送金していたこともわかった。