親の介護で子どもが自己破産、施設費を滞納……そうしたケースが増えている。「介護破産」までいかなくとも、予想外の出費がふりかかってきたら──。お金の苦労に直面した人たちはどんな不安を抱えたのだろうか。小林さん(仮名)は介護うつになり、退職せざるをえなくなりーー(取材・文=樋田敦子)
仕事に前向きになれず職場に居づらくなって
母親(87歳)と二人暮らしだった元団体職員の小林健太郎さん(60歳)は、離職を選んだ。収入が途絶えることはわかっていたが、介護うつで仕事ができない状態に追い込まれたという。
「昼夜逆転の生活になり、ほとんど眠れない日々でした。認知症の母親は、デイサービスで夕食を食べてきても、夜遅くに食事を作り出すのです。ガスを使っての料理は、いつ火事になるかわかりません。だめと言っても聞かない。母を怒鳴りつける自分が嫌になっていきました」
毎朝デイサービスの迎えが来るのを待って送り出すため、会社に遅刻する。帰宅しても、家の中を歩き回り、何をしでかすかわからない母親が心配で、気の休まることがない。
そんな毎日が続くなか、母親が家の中で転倒し、大腿骨骨折で入院することになった。ところがいざ入院となってみると、母親の貯蓄がどうなっているかわからない。
九州に住む兄は「お前に任せる」のひとことのみ。手術費と入院費、転院したリハビリ施設の費用で毎月15万円ほどを半年間、健太郎さん自身の蓄えから支払った。
母親はリハビリの後、状態が良くなり自宅に戻ったものの、すぐに今度は手首を骨折してしまう。
「家にやってくるヘルパーさんが母に、『転ばないようにしなきゃだめよ』と話しかけている言葉が、私には『あなたの落ち度で骨折させた』と責められているように聞こえるのです。介護のストレスから仕事に前向きになれず、職場にも居づらくなって、2年前の春に辞めました」