「人の上に立つ」という柄にもないことをしてしまいました

ちょうどそのころ、「起業コンサルタント」を名乗る複数の人たちから、連絡が来るようになっていました。

「もっと教室の規模を拡大しましょう」「インストラクター制度を導入することで生徒さんのやる気が上がりますよ」「先生ご自身にもライセンス料が入ってきます」など、心をくすぐるような話を聞くうちに、「やってもいいかな」と思ってしまったのです。

そこで一定以上のスキルがあり、人間的にもほかの生徒さんから慕われている数人にインストラクターになってもらい、業務をまわすようにしました。

もちろんトップに立って指示を出したり、意見をとりまとめたりするのは私です。

ところが、そもそも一匹狼タイプで、自分の好きなようにしていたい私には、「組織のトップに立つ」とか「人をまとめる」というのは、まったく向かないことだと思い知らされるまで、さほど時間はかかりませんでした。

本来の私は一匹狼の気質なのに、勘違いして組織のトップとして人を束ねようとしたのが、無理の始まりだったのです。

今のように一斉に業務連絡のできるLINEのような便利なツールのない時代です。「**さんに××が伝わったと聞いたけれども、私は聞いていない」などといった事態も生じました。

インストラクターそれぞれに事情があり、要望があります。

トップに立つ器の人なら、小さな組織ですから、そのすべてに耳を傾けて、スタッフ全員にとってメリットがあるよう、公平に組織を運営していくことができるのでしょう。しかし私には、それがどうしてもできませんでした。

本来、自己犠牲とは無縁の私ですが、このときばかりは「自分さえ我慢すれば、みんなが満足してくれるのだから」としか思えなくなっていたのです。

「どうしてこんなに向かないことを私は選んでしまったのだろう」と自分を呪ってもあとの祭りです。

新たなシステムは走り出してしまい、インストラクターになった人たちは嬉々(きき)としてレッスンに励んでいます。

どうしてそんな状況で、「私にはトップを務めるのは無理です」などと言えるでしょうか……。