(写真はイメージ。写真提供:photoAC)
世間から「大丈夫?」と思われがちな生涯独身、フリーランス、40代の小林久乃さんが綴る“雑”で“脱力”系のゆるーいエッセイ。「人生、少しでもサボりたい」と常々考える小林さんの体験談の数々は、読んでいるうちに心も気持ちも軽くなるかもしれません。第18回は「推しのサイン会に行ってきた」です。

推しには自力で会うべし

土曜日。新宿の紀伊國屋書店で行われた、脚本家の宮藤官九郎さんのサイン会に出かけてきた。

実は『木更津キャッツアイ』(TBS系・2002年)以来、彼の書く作品をずっと追い続けている。正確に表現するのなら、彼が脚本を手がける作品が好きだ。

地上波で放送および、動画配信サービスで配信された作品、そして映画は隅々までチェック。いくつか舞台にも出かけたし、彼が出演するドラマや映画も観ている。現在放送中の『宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど』(TBSラジオ)も毎週欠かさず聴いている。彼が所属するバンドの『グループ魂』にはさほど興味が刺激されないようで、ライブへ出かけたことはないが、その他の情報は漏らさないようにしている。

落ち込むことがあったら、彼が手がけた作品を見て英気を養うこともある。要はファンであり、現代風に言うと宮藤さんは私にとって“推し”だ。

そんな気持ちもあって、ここ数年、業界人の特権を活用して何度か取材を試みている。が、露出も少ない方なので、理想とする形での取材が成立しない。「うぬぬ……」とジリジリ。

ある日、「宮藤官九郎さん トーク&サイン会開催」という文言がSNSに流れてきた。見つけた瞬間、何のためらいもなく申し込みの手続きをしていた。おそらく倍率はすごいだろうし、運試しのつもりで、とりあえずトライだけしてみようという気持ちでいた。

この思いを翻したのが3月30日に届いたメールだ。

(あれ、紀伊國屋? 私、本の販売イベントの仕事でもあったっけ?)

中年なので、記憶力は見事に低飛行中。サイン会に申し込んだこともすっかり忘れていた。

「この度は【宮藤官九郎『季節のない街』刊行記念イベント】にご応募いただきありがとうございました。厳正なる抽選の結果、【第二部・サイン会】にお客様が見事当選されました。おめでとうございます」

そこに書かれていたのは、オタクなら年に何度でも拝みたい「当選」の文字。信じられなかった。おそらく今年のチケ運はすべて使い果たしたといっても過言ではない。職権乱用をして推しに会おうと姑息な手段を考えていた私がバカだった。これなら正々堂々と推しに会えるじゃないか。

サイン会当日のポスターはこんな感じ