「もう結婚はこりごり」

夫の死後、篤子さんは、葬儀の主導権を義母に奪われました。夫は田舎の出身で長男でした。親戚や義実家の近所の人たちが勝手に葬儀委員会を作り、仕切ります。夫の死について、「どうして気付かなかった」などと非難も浴びました。「気付きたかったよ」と篤子さんは思いました。自身が最も自らを責めていました。「お金は親にやれよ」などと、夫の生命保険や遺産についても、口出しされました。

田舎ならではの風習だったのかもしれません。でもいくら結婚生活が短かかったとはいえ、そんなふうに他人から土足で踏み荒らされるのは、篤子さんには耐えられませんでした。夫の墓も彼の郷里にありますが、墓参りに行ったことはありません。「お位牌はうちにあるから、いいの」。その後、夫の実家とは没交渉のままです。

そんな結婚生活を経験したせいか、その後、篤子さんは再婚しようとは思いません。「もう結婚はこりごり」。この10年ほど付き合っている男性(66)はいますが、一緒に住む話も再婚話も出ません。最近では、会うのも年に数回くらいになっています。

篤子さん自身のお墓はどうするつもりでしょう。「納骨堂で良いかなと思って」。父の実家は遠方にあったため、ほとんど墓参りにも行かず、篤子さんたち姉妹は場所も分からないほど。父は、自分用の墓を買う代わりに、納骨堂を、近くの寺で購入しました。マンション式の、位牌と遺骨を収納するタイプです。家族も入れるので、母も同じ納骨堂に入ると話しています。篤子さんもそれでいいかと思っています。

理想の老後の生活は?と聞くと、篤子さんは「想像がつかない」と吐露しました。老後は「さすがに仕事はしてないと思うけれど、……何してるだろう」。趣味の絵を描いているのでは?「それはあるかもしれません」。ふだんから「何も考えてない」と言いますが、きっと、それは、仕事が忙しすぎて、先のことなど考える余裕がないからでしょう。これも「ワーカホリックあるある」です。母のために実家に戻ったほうがいいかもと悩むのも、帰省して時間的に余裕がある時です。