あまりに突然

実は、篤子さんは、かつて結婚していました。夫は、篤子さんが42歳の時に他界しました。突然死でした。

新婚生活1年目のことでした。夫は、翌朝早くに出掛けるからと、早めに寝室に引き上げました。2~3時間後、風呂を済ませた篤子さんが、さて寝ようと寝室に行くと、ベッドの中央より篤子さん側に体をはみ出させて夫が横たわっていました。自分が眠るのに「邪魔だなあ」と、どかそうと触った時、篤子さんは夫の体が冷たいことに気付きました。

救急車を呼び、心臓マッサージもしましたが、押すと反発するほど、すでに夫の体は硬直し始めていました。自宅に来た救急隊は、夫を見ても処置しませんでした。手遅れでした。「警察を呼びます」。警察が来て、不審死として夫の遺体は司法解剖に回されました。心筋梗塞でした。心臓に持病があった訳でもなかったのに。

あまりに突然でした。前年に結婚したばかり。ハワイでの挙式では、満面の笑みの父とバージンロードを歩いたものです。不惑を越えても結婚もせず、心配していただろう両親に親孝行できたと思った矢先でした。

夫は篤子さんの仕事を応援してくれていました。「自分が本当にしたい仕事につけている人なんて、そうそういない。辞めたらいけない」。当時、篤子さんはすでに今の会社で働いていました。アドバイス通りに、結婚後も仕事は続けていました。共働きの2人の結婚生活はまだまだこれから。2人で将来したいことも何も実現しないまま、夫は先立ってしまいました。