「老後の生活設計」の難しさ

「もっと真剣に、老後のこととか考えないといけないよな、と思うんですけどね。まさか自分が、こんな年になってるなんて、実感がなくて……。気付いたら、え!? もう定年!! って。いろんなことを考えなくちゃいけないのに……私、ぼんやりしてるから。もうそこまで老後が迫ってるのに、まだピンときてない。気分はいつまでも若いままで」

「まずは、老後の資金計画をちゃんとしなくちゃ」と篤子さんは言います。ファイナンシャル・プランナーに、将来設計をシミュレーションしてもらうことをモトザワは勧めました。たぶん、篤子さんは、老後の資金ショートは心配しなくて良いでしょう。投資に回している金額がそれなりに大きいのと、積立・運用するばかりで全く手をつけていないためです。資産がけっこうあると安心できれば、篤子さんはもう少し、会社から精神的に自由になれるのではないかと、モトザワは想像します。

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篤子さんのように、自分の老後に老親の近くに戻るか、いま自分が住んでいるエリアに住み続けるかで迷う女性は多いのではないでしょうか。親が一人暮らしならば、なおさら心配です。「後悔したくない」と、最後の日々を一緒に過ごしたいと考えるのは人情でしょう。

ただ、親がいつまで生きるかは誰にも分かりません。他界するのは1年後かもしれないし、30年後かもしれません。親元に戻るのは10年後でも間に合うかもしれないのです。先が読める子育てとは違って、いつどうなるかが分からない、将来が計算できない、というのが「老後の生活設計」の難しいところです。

写真提供◎photoAC

しかも、実家が地方ならば、老親と一緒に住むイコール、完全に東京を引き払うことになりかねません。仕事だけでなく、友人など交友関係も、地方で作り直す必要があるでしょう。それを考えると、地方へのUターンは、年齢的には早いほうが、体力的にも精神的にもスムーズにいくかもしれません。

親のことは心配だけれど、友だちもいて生活の基盤もある東京を離れがたい、という篤子さんの迷いは、よく理解できます。しかもシングル女子は単身ゆえに、夫や子どもという東京に残る「口実」がありません。1人で決断して1人で行動出来てしまいます。可能であるがゆえに、そうしない自分は「親不孝なのではないか」と自分で自分を責めてしまうのです。地方出身女子の悩みは深そうです。

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