「さいやく」メールを忘れない

当時、私は引っ越しを考えていて多くの不動産屋を訪ねていた。そこで出会ったのは、渋谷にあった店舗のスタッフ。新築のマンションを勧められて、内見に出かけた。が、まだ工事中の箇所があり、室内には入れないという。

「室内の内見が不可能であれば、ちょっと今日は決められませんね」
というと、スタッフはボソッと
「……見んでも決めろや……」
と言う。はて? 私が今、聞くはずのないシチュエーションで聞いた言葉はなんだろう?

後日、その新築物件の入居が決まったとメールをもらった。そこには

「すみません、もう入れなくなりました。さいやくの結果です」

と、たった一文が書かれていた。「さいやく」が脳内で「最悪」に変換されるまで、数分かかった。「さいやく」。おそらく誤字ではなく、彼にインプットされている言葉らしい。このメールが脳裏に焼き付いているので、たいがいのメールに異存はない。お互いに誤解がなく、内容が理解されればいいという解釈だ。そんな私でも最近の、いただき乱用メールには辟易している。

あくまで私の場合だが、ビジネスメールは端的にタイトルの用件のみで終わるはず。いくつか用件は重ねることが多いので、それぞれの用件にナンバリングをして箇条書きのように書く。

「少々お時間いただけますでしょうか」ではなく「何月何日の何時までに」と返信の期限も明確にしている。ちなみに返信は即時、もしくは翌日までには行う。こんなふうに書くと、上から目線も甚だしいけれど、いただき乱用メールを書く時間がもったいないので、ここはシンプルにしたい。それが無理なら電話をさせてくれないだろうか。