アポ取り後の電話
「あ、もしもし。どうもお世話になります。小林久乃です。いただいたメールの件で、ちょっと不明点がありまして、電話をしました」
「……(おそらく面食らった顔をしているはず)あ、はい」
「今、お時間よろしいでしょうか? もし無理ならかけ直します」
「あ、いえ、どうぞ……」
とある日。20代の男性編集者に不明点があったので電話をしたのだが、彼は完全に驚いていたうえに、会話が辿々しかった。それだけではなく「なぜこの人は俺に電話をしてきたのか」という、疑問と恐怖が声から滲み出ていたように思う。
「すみません。若い方は電話が苦手だとは重々承知しているんですけど……」
彼とは連日、コラムの執筆内容についてメールでやり取りをしていた。が、レスポンスがなかなかうまくいかず、メールラリーに突入していたのだ。
受注側の私は発注側のリクエストに応えて、原稿を完成させることが仕事だ。お互いになるべく時間のロスが生じないよう、問題は解決してから書きたい。受け取る側にもストレスなく読んでほしい。それならば早く問題を潰さねばと、電話を入れた。彼の反応は特にこちらも珍しいものではなく、ここ数年間は電話をしないことが“至極当然”の雰囲気になっている。全てのやり取りはメールを通してほしいということだ。
最近では事前にアポを入れてから、電話を入れることもある。オンライン会議ではなく、単なる10~20分程度の通話なのに予約が必要なのだ。このシステムにはどうも納得がいっていない。
ただおかしなもので、電話をかける人=私の元にはよく電話がかかってくる。自宅で作業をしているときは、話しやすいように午前中からAirPodsを装着してパソコンに向かう。
「あ、この間提案した企画の件ですよね。そちらラジオ局へ回しておりまして……」
ご時世、ログを残さなくてはいけない内容であれば、通話終了時に箇条書きでメールを送ることもある。面倒に思われそうだけど、大した作業ではない。それでも話したというだけで溜飲が下がるのは、私だけなのだろうか……?