「認知症」という言葉に至るまでの歴史

認知機能障害をもたらす病気にアルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性、前頭側頭型、水頭症ほか、さまざまな原因による症状があることがはっきりしてきました。

それでも今はまだ「認知症」という呼び方が一般的に使われていて、当事者の気持ちを暗くしているのではないでしょうか。

おだやかに過ごしてほしい。そう思いながら寄り添っています。(写真:『93歳、支えあって生きていく。』より)

私が看護師になった昭和23年ごろは認知症とは呼ばず、認知機能に障害のある方は「痴呆(ちほう)」「ボケ」などと呼ばれていました。

やがて作家の有吉佐和子(ありよしさわこ)さんが、認知障害のある男性への厳しい介護について描いた小説『恍惚(こうこつ)の人』を出版され、映画やテレビにもなって、社会の目が向けられるようになりました。

そして平成元年に「高齢者保健福祉推進十カ年計画」が策定されると、ヘルパーが各家庭に出向くようになり、今まで隠れていた痴呆(ちほう)の人と暮らす家族の悲惨な実態が明るみに出るようになり、平成17年の「地域包括支援センター」の制度化とほぼ同じ時期に、「痴呆(ちほう)」という言葉は「認知症」に変わりました。

この様に、「認知症」という言葉に至るまでには、さまざまな歴史があるのです。

ある時、初期認知症の男性が「私たちには病名があるのだから、認知症とはいってほしくない」といわれたことがありました。当事者にすればもっともなことです。

このこともあって、私はかねがね医学的にやむを得ない場合を除いて、認知症という言葉はできるだけ使わないようにと考えています。