夫には反対されたけれど

この舞台に初めて立った当時は30代。今回は47歳ということで、正直な話、体力、気力、記憶力のすべてが衰えていると実感しました。

初めて演じたときは1ヵ月で覚えられたセリフが、今回は3ヵ月もかかってしまった。客席まで響く声を出すためには自分の体も整えねばなりません。公演中の疲労を解消するために宿泊先のホテルに酸素カプセルを備えていただいたり、喉の炎症を抑えたり、風邪をひいたときに欠かせない漢方薬も、あれこれとスーツケースに詰め込んでニューヨークに持ち込みました。

夫のティロにも「なぜ、そんな大変なことをするの?」と言われましたね。彼はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のヴィオラ奏者であると同時に、オーケストラのツアーマネージメントの仕事もしているので、私たちの公演概要を見ても、どれだけの規模で、どれくらいの予算がかかるのか、即座に計算できるんです。

単純に金額の話だけでなく、それに対して自分が捧げるものと得られるものの収支が合っていないということもすぐわかる。今回の場合、私は自分の肉体を捧げ、精神を捧げ、なおかつセリフを覚える時間も含めると貴重な人生の中の半年近くを『猟銃』という舞台に差し出すことになる。

しかも、公演が終わった後は抜け殻のように何もできなくなる状態が数ヵ月も続くので(笑)、「そこまでする価値があるのか? 無理してやらなくてもいいんじゃない?」と、何度も反対されました。

でもね、そう言われると余計にやりたくなるんです。(笑)コンフォートゾーンに甘んじることなく、今よりもっと高く、もっと早く、もっと遠くを目指したくなるのは人間の本能なのかも。あるいは、私がちょっと愚かなのかもしれません。(笑)