(撮影:伊藤彰紀)
17歳で女優デビューして以来、映画『嫌われ松子の一生』を始め、ドラマ『JIN -仁-』シリーズ、『あなたには帰る家がある』など、数々の作品で独自の存在感を発揮している中谷美紀さん。2023年秋には、二宮和也さん、大沢たかおさんと共にドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』のトリプル主演も務めた。そんな中谷さんが2011年に初めて挑んだ舞台がひとり3役を演じる『猟銃』だ。2023年には、この舞台をニューヨークで上演するために単身ブロードウェイに乗り込んで、稽古から本番を終えるまでの怒涛の59日間を綴った日記エッセイ『オフ・ブロードウェイ奮闘記』(幻冬舎)も出版。過酷な舞台に挑む中谷さんの演技にかける思いと、女優の活動を支えているドイツ人の夫君との日常やオーストリアでの暮らしについてお話を伺った。(構成◎内山靖子)

<舞台『猟銃』概要>

中谷さんが演じるのは3人の女性。三杉穣介というひとりの男の13年間に渡る不倫の恋を軸に、その男の妻であるみどり、愛人の彩子、そして愛人の娘・薔子の姿を、それぞれの愛と憎しみを浮き彫りにしながら演じ分けていく。

穣介を演じるのは世界的バレエダンサーであるミハイル・バリシニコフ。言葉と肉体、そして日本の禅と美学を物語とクロスさせた名匠フランソワ・ジラールならではの演出で、1949年に発表された井上靖の短編小説『猟銃』にあらたな息吹が吹き込まれていく。

バリシニコフさんとの共演に魅かれて

ひとりで3人の女性を演じ分ける『猟銃』を2016年に再演する機会をいただいたとき、日々、自分の身体をナイフで削り取るかのような過酷さから、千秋楽を迎えたときには「もう2度とこの作品を演じることはありません」と宣言したほどでした。

それが2023年にもう1度この舞台に挑むことを決めたのは、何よりもミハイル・バリシニコフさんが共演してくださるということが大きかったと思います。

映画『ホワイトナイツ/白夜』にも主演されたバリシニコフさんは、クラシックからポストモダン、コンテンポラリーというバレエの歴史を生きてこられたほぼ唯一のダンサーでしょう。そんな素晴らしい方と創作の現場でご一緒できるなんて夢のようなお話です。

どんなに過酷な舞台だとしても断るなんてあり得ない。たとえ自分が出演しなくても、稽古場を覗いてみたいと思うくらいでしたから。(笑)

実際にお目にかかって感じたことは、立ち姿がとても美しいということです。それも、普段は気配を消していると言いますか、ごく普通の人なのです。ところが、お稽古が始まった途端、ただそこに立っているだけで特別な存在になる。

70代という年齢でありながら役柄への探求心も実に旺盛で、あれだけの大スターでいらっしゃるのに、謙虚な姿勢で「日本では、お通夜でどんなことをするの?」などと、日本人の役を演じるにあたってわからないことを私にいくつも質問されて。性格もシャイで繊細。2ヵ月近くご一緒させていただいて、とてもデリケートな方だと感じました。