草笛 肉体は表に出さず、声だけで文四郎を愛情で包まなくてはいけない。さて、どうやってその要求に応えるか、ということ。
内野 20年ほど前の作品ですけど、3年前に再放送されたとき、電話をくださったでしょう。「いまテレビでやってるのよ。いいわねー、あれ」って(笑)。その電話で、改めてナレーションについておっしゃってましたね。「あえてきれいな声は使わずに、寝起きのままで声を出した」って。
草笛 そうね。朝起きてから、「あー」とも「すー」とも言わず、声を一切発さずに現場に行ったの。もちろん発声練習もしなかった。少しでも発声してしまうと、声が響いてしまうから。
内野 響かないようにしたかったというのは?
草笛 声がきれいじゃ意味がないの。むしろ響かない声で、あなたを包みたいと思った。要するに、「うまいナレーションをしよう」とは思わなかったわけ。でも成功するかわからないから、初日はおっかなかったわよ。
内野 多彩な技も豊富な経験も持ち合わせているのに、あえてすべて封じ込めて、まったく違うアプローチでナレーションに取り組む。電話でこの話を聞いたとき、草笛さんはやっぱり役者としての志が高い方だ、すごすぎる! と改めて思いましたね。あれは、ナレーションによって最終的に完成されたような作品です。
草笛 いい作品に恵まれるのは、私たちにとって幸せなことよ。あのときは、録りながら何度も泣きそうになりましたしね。あなたの文四郎も、時代劇の声がちゃんと出ていたから、とてもよかった。舞台でもそうだけど、難なくいろいろな声が出せるのはあなたの強みね。
内野 僕、お寺の生まれじゃないですか。小さいころから父の横でお経を読んで育っているんです。だから独特の発声法で、自然と声帯が鍛えられたのかもしれない、と最近思うようになりましたね。