阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。今年は2年ぶりにひな人形を出したという阿川さん。飾り付けているうち紙箱の中から小さい人形や小物が続々と現れたんだそうで――。
※本記事は『婦人公論』2024年5月号に掲載されたものです
※本記事は『婦人公論』2024年5月号に掲載されたものです
小さい頃から小さいものが好きだった。
そのことを思い出したのは、ひな人形を飾ったせいである。
やや旧聞に属する話題で恐縮ながら、今年は二年ぶりにひな人形を戸棚の奥から引っ張り出してきた。去年は引っ越し騒ぎのさなかにあり、飾ることを断念していたのだ。新しい住処でお披露目するのは初めてである。さてどこに飾ろうか……。
私が持っているひな人形は、母が嫁入りのときに持ってきたものだと伝え聞いている。
高さ三センチほどの木彫りで、男雛、女雛、三人官女と五人囃子。あとはぼんぼりと、後ろに立てかける海山の風景が描かれた屏風だけ。
どれもあちこち色が剥げている。三人官女のうち二人は顔の半分が欠けた状態だ。