木村 法律婚をするかしないかの一番のポイントは、婚姻による法的な効果がほしいかどうかです。たとえば内縁関係では相手の法定相続人にはなれませんが、婚姻をすれば相続権が認められる。税制優遇の措置などもあります。

酒井 私とパートナーの関係は同棲、あるいは法律的には内縁なわけですよね。でも内縁関係と言われると、なんだか微妙な気持ちになります。複雑な事情があるみたいで。「事実婚」という表現が重宝されるのもわかる気がします。

木村 酒井さんは婚姻による法的効果は求めていないわけですよね。

酒井 そうですね、相続をしたいわけでもないし。フランスで採用されている連帯市民協約「PACS(パックス)」(非婚カップルの保護制度)のようなものがあれば、手続きに前向きになれたかもしれません。

木村 PACSは、婚姻を希望する同性カップルの権利保護が政治的に重要な課題となって、1999年に導入されたものなんです。フランスでは80年代まで同性愛に罰則規定がありましたから。

保守派の本音としては、婚姻制度の格式を下げたくないが、早々に問題は解消したい。そこで婚姻ほど法的効果が高くない、いわば二級婚を作ったわけです。

酒井 結果的に異性カップルからも支持されるようになり、いまや法律婚ではなくPACSを選択する異性カップルが多いと聞きます。どうしてでしょう。

木村 フランスの婚姻はかなり面倒ですから。結婚する10日くらい前から役所で公示しなくてはいけなかったり、離婚する際は裁判所の許可が必要だったり。自然と法律婚が敬遠され、PACS利用を望む異性カップルが増えていきました。

一方で同性カップルからは「格式の低い結婚ではなく、平等に扱ってほしい」と、同性婚の法制化を求める運動が起きた。その結果、同性カップルに婚姻が開放され、異性カップルにPACSが開放されて、どちらの制度も利用できるようになったんです。