8割の人が一時的に適応障害に陥る
勝俣 実際に、がんの宣告を受けると、8割の人が一時的に適応障害に陥るくらいのショックを受けます。
山崎 ただ私の場合、「がん治療は、仕事を休む大義名分になる」という気持ちが頭をかすめたのも事実です。美容ブームが始まる30歳くらいの頃に専門ライターになって、40代半ばまで休みなく走り続けてきたから。
桜井 私も、がんになる前は設計事務所のチーフデザイナーとして休みなく働き続けていたから、その気持ちはわかるなぁ。もちろん、責任ある立場にいたから、仕事を放り出して入院はできなかったので、バタバタと引き継ぎをした記憶があります。
山崎 私は連載を2本だけ残して仕事をセーブし、そのうち1本を「闘病記」にしようと決めました。取材にかこつけて、専門家に本当のところを聞きたかった。私が知りたいことは、ほかの患者さんもきっと知りたいだろう、と思って。
桜井 そこが、山崎さんのようなフリーランスの立場の人と、私のように会社勤めをしていた人間との違いですね。会社員は、基本的に自分で仕事の工程管理はできませんから。でも一方で、傷病手当金のような公的支援は、個人事業主にはありませんよね。私は結局、傷病手当金をもらいながら、手術から7ヵ月ほど休みを取らせてもらいました。
勝俣 桜井さんも、抗がん剤治療には抵抗がありましたか?
桜井 死は覚悟していたけれど、できるだけ先に延ばしたい。だから、「1%でも生存率が高くなる手段があるなら、使います」というスタンスでしたね。
勝俣 そういう方は珍しいですね。
桜井 理系出身だということもあるのか、薬に対する偏見は、私にはぜんぜんなかったのです。
山崎 私の友達で、医師に「抗がん剤治療は必要ない」と言われたにもかかわらず、「やってください!」と詰め寄った人がいました。幼子を抱えたシングルマザーで、「先生、この子のために死ぬわけにはいかないんです」って。
桜井 わ、抗がん剤志願兵だ。(笑)
山崎 当然説得されて、治療はしなかったのですが、人それぞれなんですよね。私は、「わざわざ体に毒を入れるなんて」と思い込んでいた。