闘病生活で見えてくるパートナーの本性
勝俣 治療や闘病では、配偶者や家族との関係も実は大切なんです。お二人は治療について、パートナーとどんな話をされましたか?
桜井 最初に結論を出す必要があったのは、子どもを産むのかどうか。当時は、卵子を凍結する、なんていう選択肢はありませんでしたから、子どもが欲しいのなら、卵巣機能が低下してしまう抗がん剤はNGでした。私はもう死ぬ気でいたから、夫に「一人で育てられる?」と聞いたんですよ。そうしたら「無理だ」と。「じゃあ子どもは諦めて、抗がん剤やるね」という結論に至った。ほかにも、自分が死んだあとのことをいろいろ話したなあ。
勝俣 そこまで向き合って夫婦で話をされたのですね。珍しいことだと思います。
山崎 うちは私の病気がわかるまで、お互い無関心というか、正直、夫のことを、「一緒に暮らす意味があるのかな」くらいに感じ始めていたんですよ。でも、「がんが見つかった」という話をしたら、「どのみち人間の致死率は100%なんだから」って言葉をかけてくれた。それからは、サンドバッグのように、私の愚痴をひたすら聞いてくれて。それで思い出したんです。私、仕事で精神的にすごく弱っていた時期があって、そのときに寄り添ってくれたのが彼だった。そこに惹かれて結婚したんだ、って。
桜井 うわー、がんが恋愛時代の気持ちを呼び覚ましたんですね。
山崎 一人での闘病はつらいし、早まって別れなくてよかった。(笑)
桜井 うちも仮面夫婦だったんだけど、私ががんになったら、もう仮面なんてつけてられない。お互い深い話をせざるをえなくなりました。
勝俣 お二人とも、いいパートナーに恵まれたとつくづく思います。残念ながら、それも「貴重な」事例で、奥さんががんになると離婚率が高まる、というデータがあるのです。夫が受け止められずに、途中で逃げちゃう。最初は診察につき添ってきたのにだんだん来なくなって、「最近、旦那さんはどうされました?」と聞くと、「あ、別れました」というパターンが実はけっこう多いんですよ。
山崎 あとは、お金の問題で責められる女性も多いです。「どうして治療に俺の金を使うんだ」と。
桜井 私は会社を退職して、現在はがんサバイバーの方の就労を支援する活動をしています。「がんになっても働きたい」と私のところにきた女性に理由を尋ねたら、治療を終えて帰ると、「大変だったね」の代わりに「今日はいくらかかったんだ?」と、毎回夫に聞かれるのが嫌だったから、と言っていました。「自分の治療費は自分で稼ぐんだ」と。でもそれって、「働きたい」の動機がねじれてるよね。
山崎 夫の本性が見えちゃった。
桜井 自分が弱っているときに、相手の人間性が見えるわけです。
〈後編に続く〉