世の中はそもそも“不公平”である

ここまでは、物語の序盤に過ぎない。だが、この時点で私はすでに、本の世界に導かれていた。読み終わりたくない。そう思っていたのに、頁をめくる手を止められなかった。

その後、マフィは耐え難い苦難と喪失を経験する。それがあまりに悲しくて、納得できなくて、私は勝手ながら作者に対して恨めしい感情を抱いた。でも、マフィが絶望の最中にいる時、ある人物が言った。

“「いいか。世の中ってやつは、もともと不公平に、できてるものなんだ。それは、きみの……せいなんかじゃ、ない」”

世の中は、不公平にできている。たとえば、不慮の事故。たとえば、テロリストの襲撃や自然が引き起こす災害。たとえば、生まれ落ちた場所が苦痛にまみれた牢獄であった場合など。誰にも選べない。誰にも、どうしようもない。望んでその場所に居たわけじゃない。望んで傷ついたわけじゃない。望んで奪われたわけじゃない。

「お前は一つも悪くないって言ってんだろ、バーカ!!」

幼馴染の声が、重なった。私が父にあんなことをされているのも、それを知っている母が助けてくれないことも、腹いせのように私に折檻をしてくることも、全部、「世の中にある不公平」の一部であって、私のせいじゃない。

夢中で読み進めた先、物語後半の言葉に触れ、私の心は大きな音を立てた。そこには、これまで誰も教えてくれなかった真実が記されていた。

“「居場所なんか、これからまた作ればいいじゃないか。鳥だって、巣を壊されても翌年また別の枝に作る。あきらめてしまうことはない」”

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幼馴染は、居場所を作りに行ったのだと気付いた。彼は、「生きるために」旅立ったのだ。彼の巣は、私と同じでとうの昔に壊れていた。同じ場所にとどまっても、ここでは巣を作れない。安全基地を築けない。彼はそれを悟っていて、でもきっと、私のことが気がかりだったのだろう。だから、せめてこの物語を手渡してから旅立とうと決めたのだ。彼らしい不器用さに、思わず眉尻が下がった。と同時に、口元が激しく震えた。

もう二度と会えないかもしれない。

そんな予感が胸を掠め、耐え難い痛みとなって心を刺し貫いた。それは、これまで感じたことのない種類の痛みだった。恋の痛みなんかじゃない。半身をもがれたような、圧倒的な喪失感。だが、痛みだけではなく、深い祈りが胸中で混ざり合っていて、だから余計に苦しかった。彼が無事に生きていますように。新しい居場所を作れますように。その巣が、もう誰にも壊されませんように。心からそう祈ると同時に、彼に会いたいと切実に思った。