「たまたま」の幸運を呼び込む力
淑恵さんには、老後についてのぼんやりした構想があります。「女友達が、近隣の市にアパートを持っているんです。彼女は父親から経営を継いだんです。そのアパートの別々の部屋に、老後は、彼女と私と住んだら良いんじゃないか、って話してるんです」
気安い女友達と近くに住むと、精神的にも安心でしょう。アパートの部屋は、3LDKで家賃3万円。いまの自宅マンションを貸したら、家賃は10万円取れます。差額の7万円を生活費に充てる、と計算します。離婚のおかげ、と言ったら語弊がありますが、老後まで暮らせる場所が確保できたのはありがたいことです。
「マンションがあって、本当に良かったって思っています」
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淑恵さんの人生は「たまたま」の連続のようです。今のマンションを見つけて買ったのも「たまたま」内見予定の物件が見られなかったから。その後の就職も「たまたま」再会した知人の伝手で。がんの手術をスムーズに受けることができたのも「たまたま」旧知の医師と会ったから。最後は本人の選択ですが、淑恵さんの前向きさ、明るく楽観的な性格が、そうした「たまたま」を呼び込んだ面もあるように思えます。
隠さずに事情を話してくれる淑恵さんだから、周囲も有益な情報を提供できました。物件の紹介も、就職先の紹介も、病院の紹介もそう。困っていると声を挙げたから、助けが必要だと分かってもらえました。反対に、同じような岐路にいても自分の状況を明かさないために、助けが不要だと誤解される人も多いように思います。モトザワ自身も、つい見栄を張って、大変な状況下でも大丈夫と言ってしまいがち。でも、老後をQOL(生活の質)高く過ごせるかは、どれだけ周囲に助けてもらえるかによるかもしれません。必要な時には、恥ずかしがらずに声を挙げたほうが良いのです、きっと。
◾️本連載をまとめた書籍『『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)』が発売中