紫式部を地獄から救ったのは……
ところで、冒頭でも紹介したように、罪深い『源氏物語』を書いた咎で「地獄に堕ちた」といわれる紫式部は、その後、どうなったのでしょう。
その謎を解く鍵が、本連載の第2回でも紹介した紫式部の墓所にあります。
紫式部の墓の隣には、平安時代初期の公卿、小野篁(たかむら)の墓が並んでいます。同じ平安時代とはいえ、2人が生きた時代には200年ほどの隔たりがあります。いったいどういう縁で、2人の墓は並んでいるのか……。
有力な説を紹介しましょう。小野篁には、“冥界の裁判官”という夜の顔がありました。閻魔大王の補佐として、地獄行きかどうかの判決の助言をしていたというのです。
地獄に堕ちてしまった紫式部を助けるべく、篁は閻魔大王にかけあいます。そして、彼女を地獄から救い出したあと、自分の墓の隣に埋葬したのではないか。そう伝えられているのです。
ほかにも、地獄に堕ちた紫式部を哀れんだ人たちが、篁に彼女を助け出してほしいと願って、彼の墓を紫式部の墓の横に移したという説や、閻魔大王に地獄に落とされそうになっているところを、篁がとりなした(つまり、紫式部は地獄行きを免れた)という説など、さまざまなバージョンがあるようです。
もちろん、どれも伝説にすぎず、真相は謎に包まれています。確かなことは、紫式部と小野篁の墓所が隣り合っているという事実だけ。
とりあえず、紫式部は今も地獄で苦しんでいるわけではないようです。『光る君へ』ファンとしては、ひと安心といったところでしょうか。