一生賃貸族のつもりでした

今春、志帆さんは再び転勤になり、東京の本社勤務に戻りました。異動時、志帆さんは上司に断って、京都との二拠点生活を始めました。東京の賃貸マンションは、本社までドアツードア30分程度で通勤できる1Kの部屋です。最低限の荷物だけで引っ越しました。家賃は12万円。法人契約で、会社から家賃補助も出ます。

代わりに、京都の鴨川沿いの部屋は、法人契約から個人契約に切り替え、個人で敷金を入れ直しました。東京と同程度の家賃が全額自己負担なのは「痛い」ですが、借り続けています。

志帆さんは、いまは月に2回ほど京都に行っています。1回あたり2泊から1週間ほどで、トータルで月の3分の1ほどは京都で暮らしています。仕事での付き合いや取引先を京都に多く残していて、東京に戻った後も京都には通う予定でした。

いっぽうで、コロナを機に働き方が変わり、多くの社員がリモートワークと出社のハイブリッドで働いています。勤務地イコール住所地でなくてもいいのです。「どこにいるかを教えてくれたら大丈夫」と、直属の上司の許可も得ています。

仕事の資料も京都の書斎に置いたままですから、籠もって調べ物をしたり、書き物をしたりする仕事は、京都でしています。

二重生活の経済的な負担も、志帆さんの「京都で家を買う」計画を後押ししているでしょう。長く一人暮らしをしていますが、転勤も多く、家を買うなんて、一度も考えたことがありませんでした。一生、賃貸族のつもりでしたが、今、生まれて初めて、家を買おうと考えています。

『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)

会社の定年は65歳に引き上げられましたが、60歳になると早期退職が選べます。志帆さんはあと1年で早期退職の権利が得られます。まだ、何歳で辞めるかは具体的に決めていませんが、最短だとあと1年。最長でもあと6年で退職です。それまでに、京都に通いながら、買う家を見つけたいと思っています。