法律の効力

これを受け議会で調査したところ、差別的な規定はまだ広く浸透していた。

制服着用の規定は性的対象にされていると感じさせるものだとする女性の訴えが寄せられ、また、重い荷物を運ぶ、階段を上り下りして食事を届ける、長い距離を歩くといったことが必要な業務で、ハイヒールを強制されるという声もあった(5)。

調査では、「ハイヒール着用により体が不安定になるのは、コミュニケーションにおける当人の存在感と権威を損ねる」と結論づけた。パワーファッションの話はこれでおしまい、というわけか。

議会の報告書は、いっぽうのジェンダーに負担を課す服装規定は2010年の平等法ですでに禁じられているので、ソープに求められた服装規定は現行法に違反していると述べている(6)。

しかし、差別的慣行が広く行われている証拠が数えきれないほどあるにもかかわらず、政府は法律を強化するのには及び腰で、差別されていると思った人は雇用主を雇用審判所に訴えることができる、と繰り返すだけだった。

政府は雇用審判所に関しても法律扶助を削減している。つまり、多くの女性は雇用主を訴えるだけの経済的余裕がない。だから法律に効力がないのだ。

 

(1)Emma Halliwell et al., ‘Costing the invisible: A review of the evidence examining the links between body image, aspirations, education and workplace confidence’, Centre for Appearance Research, 2014, https://uwe-repository.worktribe.com/output/806655/costing-the-invisible-a-review-of-the-evidence-examining-the-links-betweenbody-image-aspirations-education-and-workplace-confidence (2020年6月20日アクセス).

(2)Unity Blott, ‘The pink tax strikes again! Girls cost £30,000 MORE to raise than boys’, Daily Mail, 9 November 2016, www.dailymail.co.uk/femail/article-3920148/Study-finds-girls-cost-30-000-raise-boys.html.

(3)Dr Linda Papadopoulos, ‘Sexualisation of Young People Review’,UK Home Office report, 2010, https://dera.ioe.ac.uk/10738/1/sexualisation-young-people.pdf (2020年6月20日アクセス).

(4)Dan Bilefsky, ‘Sent Home for Not Wearing Heels, She Ignited a British Rebellion’, The New York Times, 25 January 2017, www.nytimes.com/2017/01/25/world/europe/high-heels-british-inquiry-dresscodes-women.html.

(5)House of Commons, ‘High heels and workplace dress codes’, Petitions Committee and Women and Equalities Committee report, 2017,https://publications.parliament.uk/pa/cm201617
/cmselect/competitions/291/291.pdf (2020年1月10日アクセス).

(6)同上

※本稿は、『女性はなぜ男性より貧しいのか?』(晶文社)の一部を再編集したものです。


女性はなぜ男性より貧しいのか?』(著:アナベル・ウィリアムズ 翻訳:田中恵理香/晶文社)

現在のペースだと、男女間の賃金格差を解消するためには257年かかる――。

257年待っていられないすべての人へ。

お金×ジェンダーの必読書。