クロード・ルルーシュの手腕

物語は進んで第2次世界大戦が勃発。美しいオペラ歌手と才能あるジャーナリストの夫婦、そしてまだ幼い娘の3人家族の引っ越しをアンリたちが手伝うのだが、「あの家族はユダヤ人」と警察に密告した近隣マダムのせいで、この家族は夜逃げすることに。ナチによるホロコーストが始まっていたのだ。

家具などもおいたまま、遠くの駅まで移動したいという家族をトラックに匿って輸送するのがアンリ・フォルタン。

この家族との関わりがアンリの運命を変えることになり、やっと、『レ・ミゼラブル』との関係性が現れる。逃亡中、文字の読めないアンリに、一家の主人アンドレ・ジマンが、『レ・ミゼラブル』を読み聞かせるのである。成程、こんなふうにして「劇中劇」として織り込むのは秀逸!

原作のジャン・バルジャンとコゼットのストーリーは、時にアンリの頭の中の映像として映像化され、それを見る私たちの頭の中で「アンリ=ジャン・バルジャン」として納得させられていく。「では、ジマン夫妻の娘、サロメがコゼットになるのだろうか?」等と連想が膨らんで行くのだが、原作の現代小説なら許されない破綻が、新しい物語ではすべてつじつまが合い納得させられていくので、クロード・ルルーシュの手腕に感嘆するほかはない。