今このときを大切に
犬と一緒に歩いているだけで、僕らはなんだか晴れやかな気分になった。
公園でひと休みしていると子ども達がわいわいと集まってくる。
「うわ、かっこいい、これシェパードでしょ!?」
「警察犬なの?」
普段このあたりでは見かけない雑種の福にみな興味津々のようだ。
さっき買ったパンを袋からひとつ取り出して薫と半分ずつ食べると発酵バターの濃厚な香りが口いっぱいに広がる。
「人間の食べ物は犬には良くないよねー」と言いつつ、福にもほんのひとかけら差し出すと、ぺろりとたいらげた。
犬も人もこの先の時間は限られている。今このときを大切にしたい。
そのためならほんの少しくらい体に良くないといわれているものを食べさせてもいいじゃないか、そんな気がして、もうひとかけら、僕は福にパンをちぎって差し出した。
※本稿は、『妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』(風鳴舎)の一部を再編集したものです。
『妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』(著:小林孝延/風鳴舎)
余命半年と宣告された妻。絶望しかなかった小林家の一員となった保護犬・福。
人を警戒してなかなか懐かない殺処分寸前だった福がもたらしたのは、“笑顔”と“生きようとする力”。
救われたのは犬ではなく僕ら家族だった――。