木村 そんな理由でも、男性にとっては恐怖だと思いますよ。だって夫婦同姓でなきゃいけないまともな理由なんて、一度も聞いたことがないでしょう。往々にして、表に出せないくらい本音が恥ずかしいときほど、うさん臭い説明になりやすい。(笑)
酒井 それは驚きです! 木村さんはどういう点からその確信を得られたんでしょう?(笑)
木村 この問題を研究して長いので、当事者の話をたくさん聞いてきましたから。直接話を聞けば、本音はわかります。
酒井 じゃあ、自民党議員の多くが、わりとそういう不安を抱えているわけですか。
木村 加えて、その不安に共感する支持者も多いと考えている。いずれにせよ、不安を感じているのはこれから結婚する人より、すでに結婚している人たちです。
酒井 まあ、家父長制への幻想というか思い入れが大きいとは思っていましたが、妻子に離反されることが怖いんですね。でも自分が「嫌われてる」という自覚はあるんだ……。
木村 家父長制は、家長が自分の氏のなかにいる人に対して絶対的な支配権を持つシステム。だから酒井さんがおっしゃったことと先ほどの話はイコールなんです。自分の支配下にあるはずの妻が、氏を変えたいと言い出すのが怖い。
すでに結婚していて同氏でうまくいっているなら、他人が別氏で結婚したところでどうでもいいじゃないですか。なぜあんなに頑なに反対するのか。どこかでわがこととして考えているからでしょう。
酒井 ということは、導入はやはり難しいんでしょうか。
木村 そうでもないと思いたいですね。別氏の夫婦がいたところで、困ることはないと多くの人が理解できている。通称の使用が認められているわけですから。
酒井 仕事の場で旧姓を使用する人は多く、さまざまな不便を強いられていることもあるわけですが。
木村 ただ、今度は「通称使用は適法なのか」という問題がありまして。民法750条に「夫又は妻の氏を称する」と書いてあるのだから、通称使用の適法性こそ実は説明しにくい。にもかかわらず国会、内閣、裁判所のいずれも通称使用を認めている。三権の長がみんなで脱法しているのが現状です。(笑)