それと、隣に住んでる店長さんの大学生の娘さん、貴恵(たかえ)さん。昔から悟くんのことを弟みたいに可愛がってくれていたんだけど、付き合うようになりそうだって。みちかさんと由希美が手足バタバタさせて喜んでいた。

 よく一緒にご飯を食べに行ったり買い物に付き合ったりしてるって話は聞いていて、それはもう付き合っているんじゃないかって。でもそんな話は二人はまったくしていなかったらしいんだけど、本当についこの間。悟くんが専門学校へ行くって決めたときに、付き合うって思ったんだって。貴恵さんも、そうしたかったんだって。でも年下だし幼馴染(おさななじ)みだし言い出せなかったって。

 なんかいいよなーって皆で話した。でも、実は僕らはまだ貴恵さんと会ったことはないんだ。〈バイト・クラブ〉に顔を出してもらうのはちょっと変だし、今度皆で集まるようなこと。たとえば悟くんの合格祝いとかをやろうかって。そのときに会えるのを楽しみにしようって話をした。

 みちかさんは、高校を卒業したら料理関係の専門学校へ行くって決めた。

 そして、調理関係の仕事をする。具体的にどんな仕事をするかはこれから考えるけれども、基本的には製菓関係がいいって。

 お菓子を作るのか、あるいは食品関係の会社に入るとか、いろいろな選択肢があるだろうからそれも今のうちから考えていく。

 夏夫くんが隣に住むことになって、なんかわくわくしちゃってるって言っていたんだ。僕と由希美の話や、悟くんと貴恵さんとのことを聞いていたから、隣に男の子が住むっていうのはめっちゃドラマだって。

 みちかさんと夏夫くんがこれで付き合うようになったらいいねって由希美は言っていたけど、それはどうかなって当の夏夫くんとみちかさんが言っていた。

 なんかもう、親友みたいな気持ちになってるって。あるいは戦友。二人ともお互いに好きな人であることは間違いないから、この先どうなるかはわからないけど、付き合って別れてしまうようなことになるのは悲しいから、当面は戦友のままだって。

 僕と由希美はどうなんだって言われるけど、どうもなにも、このままだ。僕と由希美は別々の大学へ進んだとしても、就職したとしても、ずっと二人でいるはずだ。それはもう、決めてる。

 一年後、僕と由希美が三年生になったら、悟くんとみちかさんも卒業だ。〈バイト・クラブ〉のOBとOGになってしまう。そうなったら、二人だけになってしまうのは、淋しい。メンバーを無理に探す必要もないし、むしろ生活のためにバイトするような高校生はいない方がいいんだって筧さんは言う。それは確かにそう。

 でも、もしも皆が高校を卒業して、それぞれの道に進んでここに誰も集まらないようになったとしても、〈カラオケdondon〉がある限りずっとこの部屋はここにある。そして、僕たちはいつここに帰ってきてもいいんだって言ってくれた。

 それが〈バイト・クラブ〉だって。

 

*ご愛読ありがとうございました。本作は2024年内に中央公論新社にて書籍化予定です。

 

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