〈前回はこちら〉
菅田(すがた)三四郎 私立蘭貫(らんかん)学院高校二年生
〈三公(さんこう)バッティングセンター〉アルバイト
みちかさんと悟くんが三年生になって、僕と由希美は二年生になった。何事もなく進級できて、アルバイトもそのまま続けている。
三年生だった夏夫くんは、東京の大学に行った。芸術学部があるところ。学費の心配がなくなったのもあって、自分で決めたんだ。
筧さんが言っていたんだって。俳優を目指してみたらどうかって。
まったく興味はなかったんだけど、そんなふうに言われてみれば、自分はエンターテインメントの世界が好きだったんだなって気がついたって。
音楽も好きだからカラオケのバイトは楽しかったし、人を愉(たの)しませるという世界は、自分にはすごく合っているんじゃないかって思ったって。どんな芸術に、どんなエンターテインメントの世界がいいのかは、入ってから決める。
皆が、すごくいい、って思ったんだ。
夏夫くんは、なんていうか華みたいなものがある男なんだ。
お母さん譲りのきれいな容姿はもちろんなんだけど、それ以上に雰囲気としか言い様がないもの。それはもう皆が感じていた。そういうのはエンターテインメントの世界ではとても重要なものじゃないのかって。
〈バイト・クラブ〉は基本的にはアルバイトする高校生のためのものなんだけど、夏夫くんは最初からのメンバーだし、〈カラオケdondon〉のバイトはそのまま続けるので、大学生になっても出入りするって。
もしも〈バイト・クラブ〉に入れそうな知り合いがいたら、もしくは〈カラオケdondon〉でバイトできそうな子がいたらいつでも紹介してって筧さんも言っていた。今のところ、僕の周りにはいないんだけど。
夏夫くんがそういうふうに自分の進路を決めたのもあって、僕たちも将来をはっきりと意識して決めていった。
悟くんは、やっぱり専門学校へ行くことを決めていた。整備士の資格を取って、そのままガソリンスタンドの本社の試験を受ける予定。店長さんの推薦があるから間違いなく受かるだろうけれども、その辺はこれから。
店長さんいわく、ガソリンスタンドだけが自動車関係の仕事じゃない。他にもいろんなものがある。だから、専門学校へ行っている間にその辺のことも考えて決めていく。
お母さんが戻ってきたっていうのが大きかったんだ。でもそれも、夏夫くんのあの件があったからだって。
平凡に思える毎日の中でも、いろんなことが起きていて、そして自分たちの暮らしや考え方を変えていく。そう実感したなって悟くんが言っていた。本当にそう思う。僕と由希美はそれをもう実感しているし。