〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。坂城悟は高校二年生。アルバイトを掛け持ちしながら励む彼が抱える家庭の事情とは……?

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坂城(さかしろ)悟(さとる)  市立一ノ瀬(いちのせ)高校二年生
〈アノス波坂(なみさか)SS〉ガソリンスタンドアルバイト

 下手くそか、上手いか、普通か。
 道路から入ってきた瞬間にわかるようになったんだ。
 わかるんだ。
 道路からの進入角度と速度で、ぴったりちょうど計量器のベストポジションに停められるかどうか。
 そんなピッタリに停めなくたって給油はできるからいいんだけど、何もしないでもちょうどいいところに停めてもらえれば時間の短縮にもなるし、お互いに気持ちよく終われるんだ。
 上手いか普通かの区別はちょっとつき難いけど、下手くそなのは本当にすぐわかる。そんな人が入ってきてちょうど手が空いていたら、すぐに誘導に向かう。
 誘導しないととんでもないところに停めちゃう人がいるからさ。ホント迷惑だわって思うレベルでとんでもないところに停めるんだ。
 ノズル二本継ぎ足しても届かないよ! とか、事務所の扉が開かない! って感じでさ。もちろんそんな文句を言わないけどね。
 笑顔で、両手を振って、全身を大きく動かして誘導する。
 これもそうさ。下手くそな人の誘導は自分の命を守るぐらいの気持ちでやらないとならない。