〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。田村由希美は私立高校の一年生。母親が会社経営者だという彼女が、アルバイトに励まなければならない理由とは……?

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田村由希美(たむらゆきみ) 私立榛学園一年生
〈花の店 マーガレット〉アルバイト店員

 うちは、ちょっと変わっていました。
 両親がいて、私がいる三人家族。そこは何もおかしくはない普通の家族。
 母も父も働いていたけれども、母が会社の経営者でした。
 美容関係の会社で、化粧水とかそういうものを自分たちで造って販売している会社。母がまだ二十代の頃に設立して、それからずっと経営してきた会社です。
 そこの、社長が母。
 そして、父は、営業部長。物心ついたときから、ずっと二人はその関係でした。
 母に訊くと、出会ったのは母と父がまだ大学生の頃。別々の大学だったけれども、映画のサークルで知り合って、付き合いだして、そして大学を出るとすぐに結婚して。
 そのときはまだ、母は薬品会社に就職したばかり。父も建築関係の会社に就職したばかり。
 それから何年も経たないうちに母は美容関係の会社を設立して社長になって、そしてしばらくしてから、父を自分の会社に呼んだんです。一緒にやってほしいって。
 だから、母が、父を雇っていたんです。
 裕福な家のひとつだったと思います。何ひとつ不自由した覚えはないし、いつも好きなものを買ってもらえたし。
 母の会社の業績は、そんなに大きい会社になったわけではないけれどもずっと順調で、あちこちの薬局やデパートにも商品が置かれていて、ファッション誌に出たり、CMも流したりしていて。
 ちょっと、自慢でした。
 でも、きっと父は何かを抱えていたんだと思います。同時に、母も。
 二人が離婚すると私に話したのは、私が高校に合格したその日です。