ずっと、二人の間では決まっていたことだそうです。父が母の会社を辞めて、そして離婚もすると。
 ただ、私が受験生だったので、それが終わるまでは待とうと話し合っていたんだそうです。
 驚いたけれど、本当にびっくりしましたけれど、でも心のどこかで「あぁやっぱりか。そういうことか」って思った自分がいました。
 父が、一人で部屋にいるときの後ろ姿に、何か感じてしまうことがよくあったんです。たぶん、ずっと前から。小さい頃から。
 そういうことに気づけたのは、私が中学生になって、そういう大人の感情みたいなものを感じ取れるようになったからなんだと思います。
 何があったのかを想像するのは簡単ですけれど、どうしてそうなってしまったのかは、たぶん両親にもよくわからないんだと思います。
 浮気は、あったかもしれないです。
 それも、母も父も。両方とも。
 お互いに束縛しない、なんていう感じだとわかるんですけれど、そうじゃなくて、たぶん別の人をそれぞれが求めてしまったんじゃないかと。すれ違いの生活の中で。どっちが悪いというわけでもないんだと思います。
 離婚したのなら、当然どちらかが家を出ていかなきゃなりません。
 うちは、母が建てた家です。母が会社経営者としてお金を稼いで自分で建てた家です。だから、父が出て行くことになります。
 私の親権は母が持つ。そういう話になっていたそうです。
 当然ですね。父は母の会社を辞めるんですから、一瞬でも無職になってしまいます。そして、どこに就職し直したとしても母より収入が低いのは間違いありませんから。
 母と一緒に暮らすのがいちばんいい。
 それが二人の結論でした。
 でも、私の意見を尊重してくれると。
 私が、父と暮らすことを選んだんです。
 二人とも驚きませんでした。やっぱりそう、という感じです。
 母が忙しかったせいでしょうか。私は、小さい頃から父になついていたんです。
 母とは、別に仲が悪いわけじゃないですし、今でも会ってます。私のことをちゃんと見ていてくれています。
 でも、私がいなくても母はきっと大丈夫。むしろいない方がいいんじゃないかって思えました。
 父も、ひょっとしたら私がいない方がいいかもしれないですけど、少なくとも父に新しい奥さんが来るまでは、今度こそ父と一緒にずっと人生を歩んでくれる人が現れるまでは、私がいなきゃ駄目なんじゃないかって感じてしまったから。
 どうせ、高校を出たら一人暮らしをするかもしれないんです。だから、三年間ぐらい。その間、父と一緒に暮らしていこうと。