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「じゃあ、同じだ。親の離婚。私と」
「うん、そうですね」
 みちかさんは、可愛い。眼が丸くてくりん、としていて、リスみたいだ。背がちょっと低いけどとてもスタイルが良くて。
 私が棒みたいに細いから、少し羨ましい。
「三四郎くんと付き合ってるんだ。あ、三四郎くんって呼ぶのは後輩だからだからね。こないだいいですよって言ったからね」
 笑った。
「大丈夫です。皆、三四郎とか三四郎くんとか名前で呼ぶので。呼びやすいんですよね」
「そうだよね。三四郎か! って思わず言っちゃったもん。で、付き合ってるんでしょ?」
 そうなんだろうけど。
「本当にずっと一緒にいるので、あまりそういう感覚がないんですよね」
「あー、逆に」
「はい。好きなのは間違いないんですけど、その好きっていうのも、ずっと一緒にいるせいもあって」
「兄妹みたいな?」
 それも、わからない。
「兄弟がいないので」
「そうなのよ」
 ポン、ってみちかさんが自分の腿(もも)を叩いた。
「今ここに集まった皆が皆、一人っ子なのよね。なんでだろうってこの間も言ったんだけど、兄弟がいたらここに来ないかもなー、って坂城くん、一ノ瀬(いちのせ)高校のね、言ってた」
 そうかもしれないです。
 私も、もしもきょうだいがいたのなら、三四郎に誘われても来なかったかもしれない。
「今日は来るんでしょ。三四郎くん」
「来ます。九時半ぐらいに終わるから、その後に」
「なんか、良かったっていうのは変だけど、二人で過ごす時間が増えるんじゃないの? 家が隣同士でいるよりは」
「そう、なりますかね」
 確かに。今まで、夜にどこかの部屋で二人で会うなんてことはなかったから。
「離婚とか倒産とかあったけど、まぁ良いこともあったなって思えばいいじゃない。他の学校の先輩たちとも話ができるって。あ、坂城くんもね、紺野くんもいい奴よ。紳士よ」
「紳士」
 ジェントルマン、って英語で言って笑います。
「いるじゃないクラスに必ず一人は。バカな男子じゃなくて、頭も悪くなくて、何て言えばいいかな、紳士なのよ」
「誰に対しても、公平に、対等に接することができる人」
「そうそう、そんな感じ。ほら、見た目ごつくてもガラが悪くても女子供にはすごく優しいとかさ」
 わかります。
「三四郎も、そんな人です。見た目通りに優しい人ですけど、でも弱いわけじゃないです」
「真っ直ぐって感じした。三四郎くん」
「そんな感じです」