父親は、死んじゃったって聞いてる。実際、うちの仏壇に写真が飾ってあるしそうなんじゃないかな。
 わかんないというか、知らない。俺が生まれてすぐに事故で死んだらしいから。そう言われたらそうなのか、って思うしかない。
 中学校のときの同級生らしい。
 同級生同士で結婚したんだってさ。
 あぁ、東京でね。だから今も母親は東京にいる、のかな。
 最初は、最初っていうか、母さんもちゃんと実家に住んでいて、ずっとそこで住んでいて、商業高校、うん、そこのね。卒業して東京にある大きなスーパーみたいなところに就職したらしいよ。
 そこで、中学で同級生だった父親と再会したんだって。同じ職場でね。だから、それで付き合い出して結婚したんだろうけど、事故で死んだって。
 普通は、普通っていうか、実家に帰ってきてさ。実家で暮らしながら俺を育てるとかって話になるんだろうけど、そのまま東京で一人で暮らし始めたんだってさ。
 そう、最初は俺も一緒に。
 でも、すぐに赤ん坊がいるのに働くなんて無理ってなって、俺を実家に、じいちゃんとばあちゃんのところに預けたんだってさ。
 そしてそのまま夜の商売の世界に入っていったって。
 じいちゃんとばあちゃんから聞いた話。
 二人とも、謝ったりするんだよ俺に。そんな子に育ててしまった自分たちの責任だって。俺にこんな暮らしをさせて申し訳ないってさ。
 そんなこと言われても、全然じいちゃんばあちゃんのせいじゃないだろうし。もう単純に母さんがそういう人なんだろうなって。
 どうしようもないよ。
 親は選べないしね。
 でも、たまに実家に帰ってきて話すけど、俺のことを大事に思ってるのは伝わってくるし、いつかこっちに帰ってきてまともな働き口を探して一緒に住むとか言ってるけど、どうかなって。

「親は選べないってのは、あるよな。俺なんか特に。おふくろを恨んだことあるし」
「三四郎(さんしろう)とかは、そんなふうに思わないよね」
「思ったことないかな。でも、気持ちはわかる」
「どうしようもないことを考えても、どうしようもないのよ」
「そう、そう思わないと、本当にどうしようもない」