道長が高価な紙を贈る?

あの夜の出来事を振り返ると、まひろの懸帯には、厄除けよりも恋愛成就か子授けの効果があったのでは? などと思ってしまいます(あくまでドラマの中のお話ですが……)。

しかも「美しい紙に歌や物語を書いてみたい」という願いも、遠からずかなってしまうのです。これはもう、石山寺の観音さまのご加護といえるかもしれませんね。

道長が『源氏物語』執筆のスポンサーになることは、史実としてよく知られています。

定説は、紫式部が書いた『源氏物語』が貴族社会で評判になって道長の目に留まり、娘・彰子の女房としてスカウトするという流れです。そののちに物語の続きを書くよう依頼するわけですが、(本連載3で紹介したように)「紫式部は、道長に執筆を依頼されてから『源氏物語』を書き始めた」とする説もあるようです。その場合、『源氏物語』誕生のきっかけをつくったのは道長ということになります。

定説はさておき、まひろにぞっこんの『光る君へ』の道長なら、どう行動するでしょうか。

「物語でも書いてみれば?」などと言って、まひろがほしがっていた紙を、墨や筆とともにプレゼントする。出仕を持ちかけるのは、そのあとの話。石山寺での会話は、その伏線になっていた……。そんな気がするのですが、みなさんはどう思われますか。

いずれにせよ、まひろが「紫式部」として生まれ変わる日は近いようです。

ドラマが始まった頃は、質素な暮らしぶりが強調されていましたが、父・藤原為時(岸谷五朗)が越前守に任じられたあたりから、まひろの衣装もグレードアップ。裕福な宣孝(佐々木蔵之介)の妻となると、重ねる袿の数も増えて、豪華な表着(うわぎ)を身につけるようになりました。

貫禄も出て、以前とは見違えるよう。ようやく貴族らしくなってきた、というのは言い過ぎでしょうか。装束には、財力がはっきり表れるものなのですね。

紫式部の書いた『源氏物語』には、装束に関する描写も多い。こちらは細長と呼ばれるもの。(提供・「雪月花苑」)