平安時代の装束の実物は残っていない

現代人には謎の多い平安装束。普段は目にすることがないだけに興味津々というわけで、この連載でも、装束について度々取り上げてきました。専門家を訪ねたり、資料を紐解いたりするうちに、私自身もその奥深き世界の虜になったのです。

実は、平安時代の装束の実物は1着も現存していないとか。

宮中の装束文化は脈々と受け継がれているものの、1000年前の装束そのものを今、見ることはかなわない。特に色彩については、現物が無い以上、想像するしかないというのが現状なのだそうです。

紫式部は、当時、どんな色や文様の装束を好み、身につけていたのか――興味はあれど、事実を知る手立てはなさそうです。「紫式部日記絵巻」には紫式部の姿も描かれていますが、この絵巻が制作されたのは鎌倉時代初期と、紫式部が生きた時代から200年ほど後のこと。装束の色や文様などのディテールは想像で描かれたのではないでしょうか。

藤の花の色は平安時代の装束によく用いられた