次は、人生で一度も触れたことのないバールに手を伸ばした。持参したタブレットは、1発振り下ろしただけで粉々に。続いて小型家電の中から選んだ扇風機を、バットで吹き飛ばす。いたずらを堂々と働くような非日常的な感覚に恍惚……。
じんわりと汗をかき、心地よい疲労感に包まれた頃、タイムリミットを知らせるブザーが鳴った。汗を拭いつつ、社長の河東誠さんに店をオープンしたきっかけを尋ねてみる。
「海外にこうした店があるのをテレビで知って衝撃を受け、『日本でもイケる!』と。そもそもモノは、廃棄される時点で生まれ持った目的を達成します。それならば、『壊されて、人の心を癒やす』という新しい目的をつくってあげよう、と思いました」
今年開店したばかりだが、客足は上々だという。7割が女性客で、その大半は友達と来店。持ち込む品は元パートナーと使っていた食器類、思い出が染み付いた携帯電話が多いとか。
「ママ友同士のパーティで『破壊』を満喫した後、併設するバーで一杯、なんて姿も見られます。通路の壁が自由に落書きできるスペース(有料)なので、お子様はその安全な場所で飽きずに遊んでいますよ」
それにしても、世界的に環境問題が注目されているだけに、心配なのは破壊後の残骸の行方だ。
「もちろん、信頼できる業者に分別・処分を依頼しています。また、すでに『破壊と創造』をテーマにアーティストとコラボし、砕かれたガラスやプラスチックを芸術作品として再び活かす活動もしている。今後も、幅広く廃材利用を考えていきたいです」
いずれにせよ、過去をきっぱり精算し、新しい人生を歩み出すには「破壊」が強力な後押しとなりそうだ。