「……で、私が売買の話をお断りしたら、高森さんが急に恐ろしい顔になって……。自分の言うとおりにしないと、どうなるかわからないなどと言い出したんです」
 阿岐本が言った。
「馬脚を現したってやつですね」
 原磯が言う。
「私まで脅かされる始末です。何とかしないと、店に火を付けて従業員を皆殺しにすると……」
「本当にやりかねませんね」
「そんな……」
「だから言ったのです。縁を切ったほうがいいと」
「巨大な資本がバックにあると言われたんです」
 そのとき、谷津の声がした。
「聞き捨てならねえな」
 彼は、隣のボックス席から聞き耳を立てていたようだ。「脅されたって? そいつは害悪の告知だ。指定団体の構成員なら、暴対法でしょっ引けるぜ」
 すると、それを牽制するように仙川係長が言った。
「いいから、しばらく様子を見るんだよ。うまくすれば現行犯で挙げられる」
「おまえら、人の縄張りで何言ってんだ? 綾瀬に帰れよ」
「協力するって言ってんだよ」
「ふん。手柄を横取りするつもりじゃねえだろうな」