阿岐本は彼らのやり取りを無視して、大木に尋ねた。
「それで、その高森は……?」
「今夜、ここに来ることになっています」
「じゃあ、来るのを待ちましょう」
ただ待っていていいのだろうか。日村は不安だった。高森は組員を大勢連れてやってくるかもしれない。
「あの……」
原磯がすっかり情けない顔になって言った。「縁を切るって、どうすれば縁を切れるんですか?」
「さあてね……」
阿岐本が言う。「それをこれから考えましょう。真剣にね」
「考える……?」
「素人さんが、どうしてヤクザにかなわないかわかりますか?」
「怖いからでしょう?」
「本気だからですよ。例えば取引の話をするとします。素人さんは、話半分に聞いたり、曖昧な返事でその場をしのごうとします。ですが、ヤクザは常に本気です。その場で真剣に考えているんです。だからかなわない」
「はあ……」
「ですから、今から本気で考えるんです」