義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
22
谷津と仙川係長が何か言い合っているのを尻目に、阿岐本は大木たちを連れて移動した。一番奥の席は広く、六人が座れる。
阿岐本と多嘉原会長が並んで座り、その向かい側に大木と原磯が座った。日村は席の脇に立ったままだ。
原磯は顔色を失っている。阿岐本が改めて尋ねた。
「高森の態度が急変というのは、どういうことですか?」
原磯が言った。
「いや……。途中まで話はうまく進んでいたんですがね……」
その言葉を、大木が引き継いだ。
「宗教法人の売買の話でした。億単位の取引が可能だという話で、正直言うと少し心が動きましたがね……。以前も言ったように、神社を売る気はありません」
「そりゃそうだ」
多嘉原会長が言った。「神社を売るなんて、とんでもねえこってす。あの世にいる先代や先々代に顔向けができねえでしょう」
「あの……。先代はまだ生きていますが……」
「とにかく罰当たりな話だということです」