阿岐本が尋ねた。
「その中国マフィアは、日本の宗教法人を買ってどうするつもりなんだ?」
「マネーロンダリングに使うつもりでしょう。そして……」
「そして?」
「いずれ怪しげな宗教でも立ち上げようってんじゃねえでしょうか」
「おめえさん。その片棒を担ぐつもりだったのかい?」
 高森がぶるぶるとかぶりを振った。
「決してそんなつもりじゃ……。やつらと仕事をするのは不本意でしたよ。でも、どうしても逆らえなく……」
 阿岐本が隣のボックス席のほうに声をかけた。
「お聞きになりましたか? いよいよ旦那がたの出番じゃねえですか?」
 まず谷津が立ち上がり、こちらの席に近づいてきた。それに、仙川係長と甘糟が続いた。
 ボックス席の脇に立つと、谷津が言った。
「一般市民に害悪の告知をしたというだけで、暴対法に抵触するから、あんたを引っ張れる」
 高森が目を丸くした。
「あ、警察(ヒネ)か……。なんで警察まで……」
 谷津の言葉が続いた。
「それに、詐欺に関与してるってんだから、言い逃れはできねえぞ」
 高森が唖然とした表情のまま固まっている。すると、阿岐本が谷津に言った。
「まあ、お待ちなさい。黒幕がわかったんだ。そっちを何とかすべきでしょう」
 谷津が舌打ちした。
「チャイニーズマフィアって話か? 話がでかすぎて、俺には対処できねえよ」
「上に伝えればいいでしょう」
「俺はマル暴だからな。中国人は管轄外だな」
「悪事を見過ごしにするとおっしゃるんですか?」
「だから、この高森を挙げるって言ってるだろう」
「そういう筋の話じゃねえでしょう」
 その時、仙川係長が言った。
「その件、手を出さないの? じゃあ、俺が本部の暴対課とか国際犯罪対策課に話を上げるけど、いいね?」