谷津が慌てた様子で振り返り、仙川係長を見た。
「何だと……」
「いや、だからさ。使わないネタなら俺たちがもらおうと思って」
「ばか言うなよ。俺の縄張りで入手した情報だぞ」
「だって、手が出せないって……」
「本部には俺が上げる。おい、おまえ……」
谷津は高森に言った。「そのチャイニーズマフィアについて、詳しく聞かせろ」
「いいですよ。そいつが捕まりゃ、御の字だ。その代わり……」
「何だ?」
「俺を捕まえるのはなしですよ」
阿岐本と多嘉原会長が谷津の出方を待っている。谷津はその視線にたじろいだ様子で言った。
「ふん。チンケなやつを暴対法なんかで引っぱってもしょうがない」
谷津は、その場を離れようとした。
仙川係長が尋ねた。
「どこに行くんだ?」
「帰るんだよ。おまえら、関係者の連絡先を聞いておけ。じゃあな」
仙川係長が言った。
「じゃあ、我々も引きあげるか」
甘糟が日村に尋ねた。
「ここにいる人たちの連絡先、知ってるよね?」
「高森組長の連絡先は存じませんが……」
「あ、これは失礼……」
高森が名刺を出して日村に渡した。
仙川係長が甘糟に言った。
「ぐずぐずするなよ。行くよ」
甘糟が日村に言った。
「後日、みんなの連絡先を聞きに行くから……」
二人は『梢』を出ていった。
「さて……」
多嘉原会長が言った。「あとは、酒でも飲みながら話をしますか」
アルバイトのアヤがボトルのセットを運んできた。