矢守 災害が起きると、日常生活が突然損なわれてしまいます。うちは妻が熊本県出身で、2016年4月の熊本地震の際、義母がマンションの9階で被災しまして。それが水害でもあったのです。

紺野 9階で水害!? どういう状況だったのですか?

矢守 まず、水道管と下水管が外れて水と汚水が噴出したのが一つ。それから、夜間電力でお湯を沸かして貯めるタンクが被害に遭い、上階から下の階に大量の水が流れてきたということでした。

紺野 そんなことがあるのですね。先生は元日の地震の時はどうなさっていたのですか?

矢守 私は大阪の自宅にいてインフルエンザで寝込んでいたのですが、あらためて気づいたことがありました。それは「病気の時にも被災する可能性がある」ということ。体調が悪い方や体が不自由な方がいるなかでの被災や避難は、本人も周囲も大変だと実感したのです。

紺野 逃げようとしても、私たちは年齢も体調も一様ではないですし、それぞれの事情が関わってきますね。先生が研究なさっている「防災心理学」という言葉ははじめて耳にしましたが、どのような学問なのですか?

矢守 もともと防災心理学は、1970年代後半に導入された新しい学問です。防災や災害の研究は、地震本体や建築物の研究など理工学系のアプローチも大切ですが、それだけでは災害を防ぎ切ることはできません。

私は日本各地で現地調査をしながら、「多くの人をどのように避難させるか」「どうすれば被災のショックを和らげられるか」などの課題に取り組んでいます。心理的な面やその地域ならではの要因を明らかにして、行動を促す仕組みを考える。人や社会へのダメージを減らす「減災」も大事なのです。

紺野 世の中の防災意識は高まっていますが、備品のほかに、気持ちの準備も大切なのですね。

矢守 防災心理学をヒントに、個人個人が判断して行動できるようになるといいと思います。