「残念ながら人は、自然災害に関して《過小評価》や《楽観視する傾向》が強い」(矢守さん)

「50年大丈夫だから」が通用しない時代に

紺野 最近はニュースや天気予報を見ていても、「これまでに経験したことのないような大雨」とか「数十年に一度の大雨」のように、ドキッとする表現が増えてきました。

矢守 台風や大雨は数日前から予報や警報が出ていることが多いですが、早めに避難する人は意外に少ないのです。残念ながら人は、自然災害に関して《過小評価》や《楽観視する傾向》が強い。避難指示や大雨警報が出ても、「まあ大丈夫だろう」と。この心理を「正常性バイアス」と言います。

紺野 そうやって自分を安心させているのかしら。

矢守 ええ。そう考えるのには根拠もあって、皆さんこれまでに無事だった経験を何度もしているからなんです。

特に高齢の方ほど、「50年この土地に住んでいて、何度も警報は出たけど、目の前の川が溢れたことはないし裏山も崩れたことがない。だから今回も大丈夫」と経験をもとに判断しがち。それは当然の思考ですし、これまではその考え方でもあまり問題はなかったのです。

紺野 たしかに、経験がものをいう判断もありそうです。

矢守 でも最近は、雨量が少なかった地域が豪雨に見舞われることが起きています。となると、50年大丈夫だった裏山が崩れるかもしれないし、川が溢れるかもしれない。もはや、「今回も大丈夫だろう」という理屈は通用しない気象状況になっている、ということです。