理性的に対策を

そもそも娘が実家に戻ってきた後、どんなことが起こる可能性があるのか想像できていますか? もし娘のほかに子どもがいたらどうでしょうか。介護の末に夫が亡くなったとします。そうしたら相続で揉めませんか? 実家に戻ってきたといっても娘には仕事もあるし、実際にはそれほど介護に参加していなかった。それでも「私はお父さんの介護を手伝ったんだから、多くもらうのは当然」などと言い出す可能性がないとは言えません。「わが家には争うほどの財産はない」と思っている人こそ、心してください。相続で揉めるのは、ごく普通の家庭が多いそうです。ですから、「うちは大丈夫」はありえないのです。

たとえ子どもが娘ひとりという場合でも安心とは言いきれません。娘が結婚していればことは複雑です。義理の息子がいろいろ口を出してきて、居心地が悪くなり、いつのまにか家を乗っ取られる……ということだってありえます。仮に、今は娘が独身でも、そのまま一生ひとりかどうかはわかりません。いずれにしても家庭内のゴタゴタが増えるのは想像に難くないのです。一度独立した子どもとは、よほどのことがない限り別々に暮らしたほうが揉め事が少なく、家族みんなにとって幸せだと言えるでしょう。サポートは、同居せずとも受けられるはずです。

夫婦ならば、年老いてどちらかに介護が必要になるのは想定内。そのときになって慌てるのではなく、覚悟と準備をしておくことが大事です。どんな公的援助が受けられるのか行政に相談する、お金があるなら民間のヘルパーさんをお願いすることを検討するなど、理性的に対策を考えましょう。ここに感情は不要です。いずれひとりになることも想定しておくこと。そのときに、ひとりはさみしいから話し相手になる娘がそばにいたら安心、と思わなくてすむよう、ゆるく助け合える友人を作っておくなり、シニア向けマンションや老人ホームを下見しておくなりしておきましょう。

(イラスト◎大野舞)
(イラスト◎大野舞)