最愛の人との別れと新たな生命

シヅ子は、石井亀次郎のドン・ホセを向こうに回して、ジャズ・アレンジされた「ハバネラ」や「闘牛士の歌・トレアドール」をスウィンギーに、パワフルに熱唱した。

とはいえ舞台の袖では主治医・櫻井先生、マネージャーの山内が固唾を飲んで見守る毎日だった。

このカルメンの上演中、穎右は上京の予定だったが、それも叶わずに、シヅ子は臨月を迎えた。しかし穎右は、治療の甲斐もなく、1947年5月19日、23歳の若さで旅立ってしまった。

シヅ子は深い悲しみのどん底に突き落とされてしまった。最愛の人・穎右が我が子を抱くことなく亡くなってしまったのだ。

シヅ子は病室の机に穎右のポートレートを飾り、穎右が着ていた浴衣を部屋にかけ、最愛の人を思いながら6月1日。女の子を産んだ。愛娘・亀井ヱイ子である。

シヅ子は愛娘のためにも、穎右のためにも、そして自分のためにも、泣いてばかりではいけない。一日も早くステージにカムバックしようと決意した。

早速、シヅ子は服部良一に、いつもの明るい笑顔で「センセたのんまっせ」と頭を下げた。

そこで服部は「彼女のために、その苦境をふっとばす華やかな再起の場を作ろうと決心した」(「ぼくの音楽人生」93年・日本文芸社)。

何か明るいもの、心ウキウキするものをと、笠置シヅ子の新曲を書くことにした。

※本稿は、『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(興陽館)の一部を再編集したものです。

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笠置シヅ子ブギウギ伝説』(著:佐藤利明/興陽館)

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