いまなら、「神田川」は僕にとってかけがえのない曲だと素直に言えます。コンサートでもお約束の一曲ですから、イントロが流れると会場が沸きます。待ってました! とばかりにね。
「神田川を聞くと元気になる」と言っていただくことが多いけど、それはきっと皆さんの心の奥底にある、穢れのない愛に出会える歌だからなんじゃないかなあ。人としての普遍的なテーマが流れているからだろう、と思います。
僕はずっと、未来に向かって発信していくのがフォークだと信じて歌ってきました。それがフォークの役割だという思いもあった。でもいまは、フォークを歌って聞いて、過去を懐かしむ気持ちが明日を生きる薬になるはず、と思いながら歌っています。
青春時代の歌を聞けば、あの日懸命に張り切っていた自分だとかかつての恋だとかを思い出して、心が弾む。これが大事なんですよ。だから過去を振り返る、懐かしむという行為は決して後ろ向きなことじゃない。素晴らしいことだと思っています。
懐かしい人との思い出も財産ですよね。「神田川」の作詞家である喜多條忠(まこと)さんをはじめ同世代の仲間が相次いで鬼籍に入り、僕はいまものすごく寂しい。
だから先日、武田鉄矢さんと会ったとき、「歩けなくなってもギター一本で歌うんだ。先立った仲間の分まで頑張ろう」と励まし合ったばかりなんです。彼らと過ごした時間は、かけがえのない財産ですから。
それに時の力はすごいもので、若い頃はバチバチのライバルみたいだった人も、いつしか戦友と化していきましたね。音楽性について熱く語り合っていた相手とも、もっぱら健康談義(笑)。それが楽しいんだから、いいんですよ。